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ひょんなことから、プロの殺し屋が集う会員制ダイナーでウェイトレスをする羽目になったオオバカナコ。
そこを訪れる客は、みな心に深いトラウマを抱えていた。一筋縄ではいかない凶悪な客ばかりを相手に、
カナコは生き延びることができるのか? 次々と現れる奇妙な殺し屋たち、命がけの恋──。
人の「狂気」「恐怖」を描いて当代随一の平山夢明が放つ、長編ノワール小説。
地獄とはどんな場所か……平山夢明『ダイナー』を読めばそれがわかる
地獄というのがどのような場所かは、死んでから行ってみないことには誰にもわからないけれども、この世にも地獄に類した光景は存在しており、ごく一部の特異な才能に恵まれた作家だけが、それを見てきたようにありありと描くことが出来る。大藪春彦賞と日本冒険小説協会大賞をダブル受賞した平山夢明の代表作『ダイナー』は、そんな地獄の再現から始まる。
ヒロインのオオバカナコは危険なバイトに参加したのが原因で凄まじい拷問を受け、危うく殺されかけた挙げ句、ある会員制の定食屋(ダイナー)でウェイトレスとして働かされる。ボンベロという謎の男が経営するその店の客は、それぞれ奇抜な必殺技を持つプロの殺し屋ばかりだった……。
著者は天才的な言語感覚で凄惨な光景を克明に紡ぎ出してゆく。巻頭の拷問シーンの生々しさからして尋常ではないが、店に舞台が移るや、狂気と暴力と奇想が融合した平山ワールドが本格的に炸裂。客層が客層だけに店では一触即発の事態など日常茶飯事、殺し合いさえ頻繁に起き、店は血まみれとなる。ウェイトレスも命の保証は全くないが、そんな非日常的な日常の中で、カナコは逞しく成長してゆくのである。
だが本書は、著者の他の作品と同様、ただ残虐で殺伐としているだけの小説では決してない。過去にボンベロと因縁がある美女・炎眉(えんび)が店に現れる四章あたりから、乾いた雰囲気の奥に潜む切ない叙情性が滲み出てくるのだ。そして最初はひたすら不気味な威圧感を放つ存在だったボンベロが、後半には極めて魅力的な人物に見えてくることに気づくだろう。地獄を真正面から見据えられる作家こそが、真の優しさを描き得るのかも知れない。(百)
評者:徹夜本研究会
(週刊文春 2017.05.25号掲載)